妙心寺について

所長会決意文

この度宗議会で、宗門の戦争協力に対する懺悔・反省とともに、米国での同時多発テロの問題、ハンセン病に関する国策追従への反省が「宣言」として採択されました。

平成七年、花園法皇六百五十年遠諱を前に、僧風刷新研究会は、本派が、軍用機を調達するなど戦争推進におおきく協力してきた事実を指摘し、「過去の戦争協力に対する反省」を提唱されましたが、機縁熟することなく、ついに宗門の戦争責任には言及されませんでした。

以来六年の歳月が流れた本年八月に、管長をはじめ多くの師家方が、教団に対して「臨済宗として一日も早い懺悔表明」を強く要望されました。この事は、今後宗門の進むべき方向を明確に示されたものであり、今回の宗議会の「宣言」もその実現に向けた一つの行動でありました。しかし、同和問題においても宗門は、他からの糾弾により、過去の過ちを直視することが出来ました。今回の戦争責任の問題も、『禅と戦争』等の出版が契機となりました。永く教団として、真剣に取り組むことなく、回光返照出来なかった事実は誠に遺憾であります。

この度ともあれ宗議会で採択された「宣言」により、まず一歩を踏み出し得たことは、大きな意義があると思います。戦争は無差別に人の命を奪います。仏教徒たるものは、人間だけでなくすべての生きとし生きるものの命を平等に尊重し、僧俗を問わず生活の規範として不殺生戒を守らなくてはなりません。しかるに、戦争による殺人、いわんやテロという、この人類の卑劣な犯罪を肯定、容認することは当然許されることではありません。

私たち禅門の僧侶は、自分の命が、他の生命の犠牲の上に成り立っているということを深く認識し、その上に立って、懺悔と感謝の心をもち放生慈悲の実践につとめなければなりません。

今回の戦争責任の問題も、このような観点から批判を真摯に受け止め、教団や個々の僧侶が戦時中にどのように行動したかを事実として直視し、検証すると同時に、自らの問題として捉えていかなければならないと考えます。

こと仏教の立場に限らず「戦争こそ最大の人権侵害」であることは、世界共通の認識として、「世界人権宣言」に謳われています。 我々は、常に「仏法によって世間を見る」ことに徹し、再び「世間的価値に染まる」ことのない、不戦の誓いを立てることが大切であると思います。

また過去のハンセン病患者に対する差別と偏見を、国策という名のもとに、教団として看過してきたことも、人権問題に対する宗門の意識の低さを露呈した形となりました。その反省に基づき、教団の人権問題に対する尚一層積極的な取り組みを要望するものであります。

今回の議会の「宣言」を起点として、今後、この精神を宗門内に啓蒙し、禅門本来の立場に足を据えて、世界平和の実現を図らなくてはなりません。 戦時に平和を語ることは難しい。平和なときこそ戦争にならぬよう働きかけをせねばなりません。そのためには、宗務行政の各機関を通して、本派僧侶、寺庭及び檀信徒に対する研修会の強化充実が必要であります。具体的には、歴史的事実の検証・戦争と人権・人権侵害と差別等をテーマとした学習のためのカリキュラムや啓発資料の作成、講師の派遣等が考えられます。

また実践活動として、各教区・各支所・各寺院一事業運動の推進や、おかげさま運動の中で、具体的にある運動(例えば難民救済の托鉢、募金など)を実施することが望まれます。

宗門の中にも戦後、懺悔・反省の上に立って遺骨収拾、慰霊行、戦災孤児の救済等を実践された多くのお方がおられました。宗門住職一人一人の自覚はもとより、一日も早く、教団としての統一的かつ具体的な方策を作成し、宗門全体として積極的に取り組まれることを強く希望します。宗務所長といたしまして、まず自ら学習に努め、宗門人がこの問題を共有できるよう、教区、部における研修会の充実と実践を図る事を決意いたします。

妙心寺派宗務総長様
平成13年10月19日 宗務所長会一同