禅の小窓

第2回「息子と私の得度式」

 お坊さんとして出家をする、そのけじめとなる儀式を得度式といいます。お坊さんとしての登竜門となる得度式は、お釈迦さまの教えをたもち、仏弟子となることを誓う大事な行事です。10歳になる息子に得度式を受けさせようと、ご本山の妙心寺に上山しました。

 

 得度式の「度」は「渡す」という意味です。迷いの世界から悟りの世界へ渡す、尊い機会のひとつが得度式です。

 得度式では、仏さまの戒めを授けていただける戒師のお導きで、これまでの幾多のご恩に感謝し、仏門に入った証として剃髪をします。そして、これまでの自らの行いを懺悔し、「仏法僧」という仏教での三つの宝に寄り添うことを誓います。厳粛で緊張感が漂い、荘厳な雰囲気の得度式は、一人のお坊さんが誕生する場です。

 

 息子の得度式に出かけたその日は初めての父子での二人旅となりました。前日の夕方に本山に到着し、広い妙心寺の境内を散策しました。夕食は近くの料理屋さんのカウンターに親子で並んで、親子最初の晩餐会を楽しみました。ホテルの部屋に戻って合掌と礼拝の練習をしてから床に就きましたが、我が子を気遣う私はドキドキする胸の鼓動に眠れないまま、朝を迎えてしまいました。

 

 得度式に臨む息子の姿を会場の隅から見守りながら、経本の持ち方や、礼拝の所作がきちんとできるかどうか心配でなりません。我が子の一挙手一投足に合わせて、自分も頭を下げて、お経を懸命に読んでいたことにハッとさせられました。

私が得度式を受けたのは9歳の頃でした。それ以降にはいろいろなことがありました。「してはいけないことはわかっているけど、わかったままにできなかったこと」がたくさんありました。そんな自分のことを思い起こすと、今回の息子の得度式は、そのまま私の得度式ともなりました。

 

 得度式を終えた息子に感想を聞くと、緊張した慣れない体験に彼なりの心労もあったようでした。あくる日、妻から「京都での夕ご飯のとき、お父さんは美味しそうなごちそうを僕に分けてくれなかったんだよ!」と笑って暴露したことを聞きました。なんとも大人気のない自分の未熟さを痛感させられました。息子と共に歩む私も、まだまだ道半ばです。

泰丘良玄
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