法話の窓

095 したこと されたこと

 「暑くてたまらんなあ、早く涼しくならないかなあ」などと思っていると、あっという間に寒くなって、気がつけば年の暮れ、一年を振り返ってみる時期がやってきました。
 みなさん、どうですか?今年はどんな年でしたか?私には今年もさまざまなことがありましたが、その中のとても印象深かったことを紹介します。

 もうまもなく1年が経とうとしています。新年が始まったばかりの正月2日、高校の同窓会がありました。その同窓会の場では、ご馳走が並んでいるのにもかかわらず、みなおしゃべりに夢中でした。何しろ卒業してから30年以上も経っていて、前回の同窓会からでも7年が経過しています。お互いの懐かしさもハンパなものではなかったのです。

 その中で、とても印象に残ったことがありました。小学校から高校までずっと同じだった同級生のO君が言った言葉です。O君は前回の同窓会には出席していませんでしたから、彼とは30数年ぶりの再会でした。

 「僕らが小学6年生だったとき、僕が何かイタズラをして学級裁判にかけられたことがある。豊岳(ほうがく・私です)君は、はじめ弁護役をしてやるって言っていたからあてにしていたのに、結局裁判官になって、僕に便所掃除一週間の判決を下したんだよ。いたずらばっかりしていた僕が悪かったんだけどね・・・」

 もちろん、私を責めて言ったのではありませんでした。O君は昔懐かしい思い出のひとつ、ちょっとした笑いばなしとしてこの話をしたのでしょう。

 私はそれをニコニコしながら聞いていましたが、内心かなり動揺していました。実は、私はそのことをすっかり忘れてしまっていたのです。ですから、もちろん私のO君に対する裏切りを、今まで謝ったこともありませんでした。

 私が彼に謝罪しなかったことで、O君が深く傷ついたということはなかったと思いこむしかありません。そのことが彼の心の中にずっと残り続けていたのは厳然たる事実です。一方、私はそのことは全く覚えていなく、かけらも残していなかった・・・。

 「されたことは決して忘れないけれど、したことはすぐに忘れてしまう」ものです。ごくあたりまえなことですが、生きてゆくうえで、心がけておくべきとても大切なことです。そのことを改めて思い知った今年のお正月でした。

 看(み)よ看(み)よ蝋(ろう)月(げつ)尽く
という禅の言葉もあります。蝋月とは12月のことです。要するに「気をつけて!ぼんやりしていると1年が終わってしまうぞ」ということです。

 皆さんも今年をじっくりとふり返ってみてください。

豊岳澄明

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