法話の窓

061 複雑な思い

 裏庭で草取りをしていた時、何気なく前方を見るともなしに見ると、1,3メートルくらいのヘビ(青大将)が頭を上げながら、移動している姿が目に入った。 こわいもの見たさと少々疲れていたので、手を休めヘビの行方を見守る事にした。

 ヘビの直進方向には、八年前に台風のために幹が地上5、6メートルの所で折れたイチョウの木がある。根元にたどり着いたヘビは、木を見上げ「高いナアー!!」と言いたそうな顔をし、木に登り始めたのである。ウロコを上手に使って、ゆっくりゆっくりと登って行く。どこまで登ってゆくのか目が離せなくなった。

 ヘビの目的は、おそらくスズメのタマゴであろうと思い、木全体に目を配ったが、巣は見当たらない。台風で折れたところから50センチ程の所に丸い穴が見えた。もしかしたらその穴の中に巣があるのではないかと、直感した。

 ヘビは、目的とする所に向かって登り続けている。思った通り、ヘビは穴に入ってタマゴを飲んでいる様子。親鳥が必死に鳴き続けていると、他種の鳥も二羽飛んできて、一緒に鳴いている。

 親鳥たちの鳴き声を気にすることもなく、タマゴを飲み終えたヘビは、穴から頭を出し枝に移動ののち、隣のケヤキの枝に移って行った。そのままケヤキの幹から下に降りるのかと思いきや、再度イチョウの枝に引き返し、幹を伝わって地面におり、何事もなかったかのごとく山に向って行ってしまった。親鳥たちも鳴くのを止めて、どこかに行ってしまった。

 ヘビの味方をするつもりはないが、自分の生命を維持するために、何日もかけてスズメの様子をじっと観察していたのだろう。機が熟すのを待って、腹の中に納めたへび......。

 自分の身体に適した条件を感知し、すべりやすいケヤキだと降りる事が出来ない、ザラザラしたイチョウの木だと、すべり落ちる事なく無事地上に生還する事が出来る。

 等身大で生きているヘビに、何か教えられた思いがする。でもスズメの親子は、かわいそうだった。自然界の現象に、人の手は出せない。

 たまたま遭遇した出来事に、色々な思いを感じながら、残り多い雑草を除く作業を開始した。

 複雑な思いがした出来事だった。

鷲津義芳

ページの先頭へ