法話の窓

031 一番偉い人

 今、世界で一番偉い人は誰でしょうか。ある人は、「それは、アメリカの大統領だ。」と言うかも知れません。確かに、アメリカの大統領は、軍事的には怖いものなしです。世界中に向けられたミサイルの照準を合わせて、一度ボタンを押せば、相手国は数時間内に破壊されてしまいます。大統領の側近の高級軍人の一人は、大統領がジョギングをしているような場合でも、一息入れてビールを飲んでいるような時でも、常にミサイル発射ボタンの入ったトランクを持って大統領について行きます。

 軍事的にも経済的にも強いことは、便利なことには違いありませんが、同時に、判断力とか、人の尊敬を集める人柄、ストレスにも耐え得る強い精神力を持ち合わせていなければ、結局みじめな結果に終わってしまいます。

 それでは、どんな人物、どんな人柄が本当に偉い人という事になるのでしょうか。今回はこの事を考えて行きましょう。

 中国古典では、意外や意外、『上善は水の如し』と言って、世の中で一番良い生き方は、水の持った性質をかね備えた人物だと言っています。水はあらゆるものに潤いを与えて、多大の恩恵を与えるけれども、それでいて、高きを競うこともない。むしろ人のいやがる低いところでいつも安らかにしている。また、強力な陣地も大水に対しては無力である。水はあらゆる状況に合わせて自由自在で、決して形にこだわる事はない。

 自由自在に自分を生かして楽しく生きるためには、自分というものを、とことん知る必要があります。人は誰でも、案外、自分のことは知ったつもりでも、少しも解っていないものです。

 この際、一度どこかの禅寺で静かに坐禅をして、外に向かった関心を自分の内側に向けてみましょう。自分を知っている人、この人こそ一番偉い人ではないでしょうか......?。私はそう思います。

河野 弘昭

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