法話の窓

015 こころの笑顔

 最近、テレビや新聞を見ていますと、国内では殺人事件が相次ぎ、国外では各地でテロなどが起き、殺伐としたニュースで溢れています。どうしてこう簡単に人を殺したり傷つてしまうようになったのでしょうか。

 ところで、私は今から十年ほど前、イギリス旅行をしてきました。イギリス人というのは、とても気さくで挨拶の好きな民族です。ホテルの廊下やエレベーターなどで目が合うとすかさず『グッモーニン』と、満面の笑顔で声をかけてくれます。
 また、町中で道に迷ってキョロキョロしていると、必ず誰かが声をかけてくれます。
『どこに行きたいの?あぁ、それならこの近くだよ。私が連れてってあげるよ』ここでも満面の笑顔。

 そういった温かい人々の笑顔に触れるうち、ふと思いだした言葉がありました。
 それは、「無量寿経(むりょうじゅきょう)」という経典の中の、『和顔愛語(わげんあいご)』という言葉です。柔和な表情と、優しい言葉。和らいだほほ笑みをたたえ、親愛の情のこもった穏やかな顔つき。愛情あふれる言葉で、人に接する事という意味があります。

 優しい笑顔のうちにある「慈しみ、思いやりのある暖かい心」、それは、人の心の痛みが分かる心とも言えるかもしれません。優しいという字は、イ(にんべん)の横に憂(うれ)いが立っています。心の中に憂いや悲しみの多い人こそ優しい。苦しみの経験を持っている人は、他の人の苦しみがよく分かる。また心の痛みを知っている人は、他の人の心の痛みも自分のこととして理解できる。相手の立場や気持ちになれる人が優しい人であり、本当に優れた人だということです。

 悲しいニュースの溢れる昨今。今、日本でも世界でも、「笑顔と優しい言葉」がだんだんと忘れられてきているのではないでしょうか。
 そこでお互いは「自分が自分が」という気持ちから一歩退いて、相手の気持ちを考えてみる。まずは、ほんのちょっとでも良いから笑顔と優しい言葉をそっと添えてみる。それがだんだんと、暖かい心と心のキャッチボールに繋がっていって、みんなに(^^)が溢れて笑顔の輪が広がれば、とても素敵なことですね。

 イギリスの人たちからもらった笑顔。ふと、思いだしました。

長谷 乾伸

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