法話の窓

008 After you(あなたのあとで)

 だんだん春めいてまいりました。庭先の梅もほころび始めました。やがて桃や桜も花ひらくことでしょう。花だけではなく、木々の新芽も吹きはじめます。また人々は、秋の実りを楽しみにしながら田畑に万の種を蒔きます。まさに躍動の時を感じます。
 しかし、田畑に種を蒔く人はあっても、自分の心に種を蒔き育てる人は多くありません。

 私たちの誰もが生まれながらに「仏様の種」をいただいています。この種を蒔いて大きく育てることこそ、人として人生においても素晴らしい実りを授けてくれるのです。
 この種を菩提心(ぼだいしん)といいます。これは「自分はまだ悟りを開いていないが、他の人を先に悟りの岸に渡そう」ということです。

 この間、両手に大きな荷物を持って電車に乗ろうとした時のことです。ホームに電車が入ってきて、皆の邪魔になってはいけないと他の乗客に先を譲って一番最後に乗ろうと思ったとき、わたしの後ろから外国人の青年が「After you」(あなたのあとで)といわれ、「thank you」と答えながら心の中がポッと暖かくなりました。
 たったこれだけのことですが、つい自分さえよければと自分勝手になってしまいがちな世の中で、理屈抜きでの「After you」は、彼もわたしもまた少し、蒔いた種が育ったのです。

 難しいことはないのです。ちょっとした思いやりから始めてみませんか?。何でもないようなことの積み重ねが、種を発芽させて大きく育て、やがては人生の実りとなって収穫できるはずです。春は芽生えの時です。
 まずは「After you」から

堀尾 佳裕

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