法話の窓

【清泉】悔いなき看取り(2013/12)

 Uさんの納骨を終えての帰り道。
 ご令室に恐る恐る「お嬢さんは就職されましたか?」と尋ねました。
 「はい、おかげさまで新しくできた施設に就職することになりました」
 「それは何よりでしたね」
 ご主人が、急に加減が悪くなられて入院されました。店の切り盛りと、寝たきりのお姑さんのお世話、それにご主人の看護は並大抵のことではないと、蔭ながら案じておりました。
 そんなある日、「主人は、お医者様がこられても『大丈夫です。いいですよ』としか言わないんです」と、お寺参りにこられた時に、涙ながらに話して下さいました。
 「却って、いたわしくてね。でも、娘が仕事をやめて看病を交替してくれるようになりました」
 「ありがたいことですね」
と、申し上げながら、こんな就職難の時節によく思い切られたと思ったものです。
 介護士の資格を取られて、以来八年間もお勤めになった職場をやめて、父親の介護に当たられたご長女の思いは、『後で心残りがあるとつらいから』とのことでした。
 新しい職場の面接には、現役の学生が多く、そのうえ面接の応答もうまくて、「『とても自分はだめだろうと思っている』と、言っていたにもかかわらず無事に就職でき、母親として責任を感じていただけに、ほっとしています」と、話してくださいました。
 私は、思わず申し上げました。
 「私が人事の担当者であれば、まずお嬢さんを採用するでしょう。だって、そんな思いやりあふれる人こそ、介護の仕事に最適の人ですから!」と、
 ご本人の実力はもちろんでしょうが、徳を積めば必ず果報があると、悲しみの中にも嬉しさがこみあげてまいりました。

   〜月刊誌「花園」より

小田実全(おだ じつぜん)

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