法話の窓

【清泉】友人の墓参り(2013/09)

 平成五年九月二十五日、小学五年生の少年が踏切事故で尊い命を失いました。
 その日、息子タクヤは明日の運動会を控え嬉しそうに帰ってきました。昼食をとりながら
「あのなあ、お父さん。今日昼からヒロシ君達と遊びに行ってもいい」と聞いてきたので、「あぁ、いいよ。でも、ちょっとまてよ、......」と、いつものロ癖の注意事項を言い渡し、家を送り出しました。
 遊び疲れ、喉が渇いた彼らは、三人でスーパーを目指して自転車を走らせたのでした。ヒロシ君は、先頭を走っている友達が、警報遮断機のある踏切を目指して曲がるのを制し、何を思ったのか、工場の中にある踏切へ向かいました。そこは工場の騒音が渦巻いており、彼らは警報機も遮断機も無い踏切に、時速百キロ以上のスピードで迫ってくる、特急電車に気づくことが出来ませんでした。
 翌日の運動会は中止され、直ちに町内八ヶ所の警報機も遮断機も無い踏切に、警報遮断機を設置して頂くよう、学校・PTAが中心となって働きかけが始まりました。
 しかし、経費の問題で暗礁に乗り上げてしまい、危険な踏切は存在し続けたのでした。そして数年後、更に二人の尊い命が犠牲になって、ようやく警報遮断機が取付けられたのでした。
 この時ばかりは、誰かが犠牲にならないと、何も変らないことに対し、悲しみを通り越してやり場の無い憤りを覚えました。
 ヒロシ君は、小学一年生から五年生まで、毎年三日間の子供坐禅会に参加してくれました。優れて聡明な気質で、普段から寺へもよく遊びに通ってくれました。そんなヒロシ君の墓参りを、今も同級生が毎年欠かさず続けていることを思うと、悲しみの中にも救われる思いがいたします。
 八回目のご命日を迎え、在りし日の姿を思い浮かべつつ、ご冥福をお祈りします。
   〜月刊誌「花園」より

小田実全(おだ じつぜん)

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