法話の窓

【一滴水】種蒔き(2013/03)

 陽だまりの小道をウォーキングしていると、ふと足元に、雪解けした間から顔を出しているふきのとうが目にとまった。
 春の足音といいますが、よく見るとまったく何もないように見える地面のあちらこちらから芽が吹き出ているではないか。
    一点梅花の蕊(ずい)
    三千世界香(かんば)し
と、いいますが、自然の「いのち」の不思議さに感動させられます。
 植物がその種子の中で芽を出し、開花していくと同じように、私たち人間の心の中にも「菩提心(ぼだいしん)」という芽があるのです。
 その芽を自然のままではなく、育てていかなければなりません。
    今日 彼岸
     ぼだいの種を 蒔く日かな
 お彼岸は、種蒔きをし、その芽を育てるための教えが六つあります。


   布施(ふせ)    ほどこそう物も心も
   持戒(じかい)   守ろうほとけのきまりを
   忍辱(にんにく)  耐えよう苦難なことに
   精進(しょうじん) 努めようあらゆることに
   禅定(ぜんじょう) おちつこう心静かに
   智慧(ちえ)    目覚めよう仏の道に


 これを「六波羅蜜」といい、争いや迷いの世界(此岸という)から、安らぎの世界(彼岸という)へ渡るための実践行です。
 「おばあちゃんが亡くなってから、毎日欠かさずほとけさまに仏飯やお茶を供え、手を合わせることが家族の習慣になりました」
 と、おっしゃる方がよくありますが、当然のこととは言え、それが菩提の種蒔きであり、お彼岸のおしえそのものであります。
    この世はわずかな物なれば
     よい種選んで蒔たまえ
      種を惜みてうえざれば
       穀物とりたる例(ためし)なし
                         白隠施行歌

 春を心に感じた時「ほとけ」の種蒔きをするよいチャンスなのです。

 

田尻和光

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