法話の窓

【一滴水】ハラヘッタ心経(2012/05)

 私どもの寺では、一ヶ月遅れの五月八日が花まつりの日です。
 田んぼの畔道に咲くレンゲを摘み、色とりどりの草花で花御堂を飾り、甘茶でお釈迦さまの御誕生をお祝いしています。
 そういえば、戦時中、学童疎開で百十名の子どもたちが寺にやって来たのも、ちょうど花まつりの日であったそうです。
 あの頃のことが懐かしいのでしょうか、今でも当時の人たちが家族と共に尋ねてこられ「あの時、飲んだ甘茶の味はいまだに忘れられないよ」と、よく語って下さいます。
 また、来たころは毎日毎日がとても寂しく、特に低学年はいつも泣いてばかり。そんな時、農協の『加納』さんという人が、面白い歌をうたって僕らを元気づけてくれたが、その歌は「たぬき」の歌であった。でも、動物の狸ではなく、実は「た」をぬいて歌う童謡であったそうです。
 さらに、当時の思い出で一番忘れられないことは、腹が減って減ってどうしようもなかったことで、食事の前にはかならず唱えさせられた般若心経でさえ、いつの間にやら、
 "マカハンニャ ハラヘッタ シンギョウー
    ギャーティ ギャーティ ハーラーヘッタ"
 と、大声で唱え、つい最近までそれが本当の『般若心経』というお経だと思い込んでいたそうです。
 思えば、それから戦後六十数年しか経っていないのに、現在の食生活の変わりようはどうでしょうか。

 今の子どもたちだけにかぎらず、社会全体が「もったいない」という心を見失ってしまったような気がします。
 どんなに時代が進化しても、食べものの大切さは決して変わろうはずがないのに......。
 お釈迦さまの誕生日に因んで、すべてのものにも命があることを語り合い、他の貴い命によって自分も生かされていることを、みんなで考えようではありませんか。

田尻和光

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