法話の窓

【法悦】お正月 無常迅速 時不待人(2012/01)

 新年 明けまして おめでとうございます。
 新しき年を迎え、人生の新ページを開く、生きる喜びのお正月であります。
 禅寺には、時刻を知らせる木板(もっぱん)があります。その木板に『無常迅速 時不待人 各宜覚醒 謹勿放逸(無常は迅速なり 時人を待たず 各(おのおの)宜しく覚醒(かくしょう)すべし 謹んで放逸(ほういつ)することなかれ)』
 と書いてあります。この16文字の教訓は、木板を打つ時、「無常の時」を大切にせよと心に刻む教えであります。
 仏教の教えは、縁起の法を要(かなめ)としております。その縁起に、無常という時間的縁起があります。無常とは、常住なものは無い、すべてのものは止まることなく、移つろい変るものであります。
 無常は、単なる詠嘆的な言葉ではなく、無常なるが故に大自然をはじめ、すべてのものが生成発展して万物が生じ、そして人間の歴史が生まれ、それぞれの人生があるのです。無常あるが故に、失敗挫折の過去を改め、未来に向って生きることが出来る人生の可能性があります。死があるから、新しき生の誕生がある。去る年、来る年は無常の証(あかし)です。無常の縁起に覚(めざ)めることが、人間の救いであります。
 『時人を待たず』時は迅速(じんそく)です。いかなる手だてをもってしても、過ぎ去った過去は取り戻すことが出来ない。即今の今、この時を大切に生きることです。一期一会のめぐり合わせを感謝して生きる心が、時を大切にする心です。
 『各宜しく覚醒すべし』すべての時、めぐり合わせは人生の本舞台です。全身全霊をもって生きよ。
 『謹んで放逸すること勿れ』常に慎み深く、自らを律して、怠慢な心をいましめよ、と、カンカンと音をたてて木板は、私たちに警告しております。
 お釈迦さまは「汝等(なんじら)よ、教えの要は心を修むるにあり、ひたすら我欲をおさえ、己(おのれ)に克(か)たんとつとむべし、身を端(ただ)し、語(ことば)を正し、意(こころ)を誠(まこと)にし、常に無常の理(ことわり)を忘るること勿れ」と。
 お正月は正念の月。正念とは人間本来の清浄心に立ち返り、無常に覚め、今日のめぐり合わせを喜び、感謝に生きる生活です。


  元旦や 家内ながらも 客言葉
 

尾関義昭

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