法話の窓

【法悦】お彼岸 「空」の心(2011/09)

 ただによき  乗物に由りてのみ
 さとりの境には  いたることなし
 ただつつしみある人は  おのれ自らを
 調ふるによりてのみ  彼の岸に到るらん     法句経


 九月は秋の彼岸月です。月光冴えて、風爽やかに、作物実りゆく好時節です。
 お彼岸は、ご先祖さまに供養すると共に、私達が彼の岸、すなわち幸福の岸に到達する期間です。
 このお彼岸への道を説いた教典が、仏教徒の一番よく読経いたします『般若心経』であります。名は体を表すと云います。『摩訶般若波羅蜜多心経』の経題の十字は、そのまま般若心経二百六十二文字の内容を表現しております。
 摩訶とは、梵語の"大いなる・勝たれる"の意、般若は"智慧"、波羅蜜多は"彼の岸に到る"、心経は"最も大切な真理"と云う意味です。 "大いなる勝れた智慧によって彼の幸福の岸に到る真理の教え"であります。
 白隠禅師さまは、毒語心経に「般若とは唐(中国語)に訳して智慧という、人々具(足)箇々圓(成)」と、般若の智慧とは私達一人一人に圓(まど)かに具わっている仏心であると教えておられます。仏心に生きる日ぐらしが到彼岸の世界であります。

 妙心寺派花園会の生活信条は、この彼岸への道を教えております。
 一日一度は静かに坐って、身と呼吸と心を調えましょう。
 坐禅は安楽の法門です。心を安らかに、平和にする内観の法です。不安や焦燥、悩みをはじめ、貪(むさぼ)り、瞋(いか)り、愚痴(ぐち)の三毒に燃える心を正しい坐法によって坐り、身を調え、ひと呼吸ひと呼吸を長くして臍下丹田(さいかたんでん)に心をこめて数え(数息観)、乱れた呼吸を調えると共に穏やかに心の波長を調え、浄化して碧空のような清らかな心境になることです。
 仏心とはよく調えられた調御心であり、清浄な心であります。禅画の名月のような一円相はこの仏心の象徴であります。
 とらわれない、かたよらない、こだわらない、広く広く大いなる「空の心」が『般若心経』が教えている彼岸に到る心であります。
 往け 往け さとりの彼の岸へ 吾れ 他と共に到り得て さとりの道ぞ 永遠に成就(めで)たき

尾関義昭

ページの先頭へ