法話の窓

100 私は、私にできることをしているだけ

森が燃えていました
森の生きものたちは
われ先にと
逃げて
いきました
でもクリキンディという名の
ハチドリだけは
いったりきたり
くちばしで水のしずくを一滴ずつ運んでは
火の上に落としていきます
動物たちがそれを見て
「そんなことをして
いったい何になるんだ」
といって笑います。
クリキンディは
こう答えました
「私は、私にできることをしているだけ」
(※出典 辻信一監修「ハチドリのひとしずく」光文社刊)

 

 この話は、明治学院大学国際学部教授の辻信一さんが、南米のアンデス地方に暮らす先住民族のお友だちから聞かれたものを訳し『ハチドリのひとしずく』として出版され広く知られるようになりました。

 ハチドリは、鳥類の中で最も体が小さく、体長は10cmぐらい、体重は2~20g程度しかありません。空中にヘリコプターが停止するように静止して、長いクチバシで花の蜜を吸います。名前の由来は、小さいからだけではなく「ブンブン」とハチのような羽音を立てるからだそうです。

 この話は、小さな鳥が山火事という参事に立ち向かう英雄物語ではなく「私は、私にできることをしているだけ」というクリキンディの言葉に大きな意味があるように思います。この話の続きは、私たちひとりひとりが創り上げるものなのです。著書では、環境問題へと話は進んでいきます。地球温暖化が叫ばれる現在、みんながクリキンディになれば、山火事状態である地球を救うことができるんだと訴えます。

 

 「わたし一人の力では何もできないし...」

 「ボクが率先してやらなくても、誰かがやってくれるだろう...」

 

 つい、そんな考えを起こしがちになることもありますが、私たちは人間として生まれ、それぞれの役割や任務を背負いながら暮らしていかねばなりません。社会人として、親として、子どもとして、地域の一人として、一人の人間として果たさなければならない役割と責任が、きっとあるはずです。「見て見ぬ振り」が横行する昨今、クリキンディは身をもって私たちに警告してくれているように思います。

 

 みなさんにも、たとえ人に何を言われようが、自分の責任で決断し、実行しなければならないことを、これから何度も経験することがありましょう。たとえ小さな力でも、こうした一人一人の実践が大きな成果へと導いてくれるのです。その一歩を踏み出す勇気と実践力を大切にしていきたいものです。

(※冒頭の原文掲載につきましては、発行元の光文社・編集総務部より、このコーナーに限りの掲載について許可を得ております。)

 

高橋乾峰

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