法話の窓

096 一(いち)をもって これを貫(つらぬ)く

 K君という青年がいます。
 K君が小学校5年生になる頃、私は彼に出会いました。そう、君たちと同じくらいの年頃だね。
 その頃、和尚さんは子供たちに剣道を教えていました。剣道のけいこは、野球とか他のスポーツと同じように、素振(すぶ)りがとても大切なんです。

 毎月の素振り表を作って、子供たちに一日300本の素振りをするよう指導(しどう)しました。でも、その素振りは、みんなでけいこしているときに振るんじゃないんです。家へ帰ってから、たった一人で振るんです。そして、振りおわったら、お父さんかお母さんに表(ひょう)にハンコを押してもらうんです。だから、一ヶ月30日あれば30個ハンコを押せます。すると9千本の素振りをしたことになるのだけれど、ほとんどの子は半分くらいのハンコの数だったから、4千5百本くらい素振りをしたことになるね。それもすごいことだけど。

 最初の4月、K君は9千本の素振りをしました。
 次の月も、また次の月も、一日も休むことなくK君は素振りをしました。一年が過ぎたとき、K君は365日×3百本、つまり10万と9千5百本の素振りを達成したのです。
 K君は2年の間、剣道の大会では良い結果が出ませんでしたが、素振りだけは一日も休みませんでした。他にも彼は、毎朝のお風呂の掃除も休まず続けていたと聞きました。
 和尚さんはK君に頭が下がる気持ちでいっぱいでした。

 彼は中学でも高校でも、スポーツは陸上の長距離走(ちょうきょりそう)、勉強も頑張(がんば)っていたようです。それから国立のK大学を卒業した彼は、ある一流の会社に研究員としてつとめました。
 そこでも彼は彼一流の努力で、夜おそくまで会社で研究をする生活を続けたのです。
 現在30才になったK君は、結婚をして家庭をもちながら研究者としての道を歩いています。

 さて、こう書いてくると、えらい人というのは大変なんだなあとか、努力ばっかりしなくちゃいけないのかなあとか思うでしょうね。そんなふうに大変だあと思わず、ポイントをいくつか知りましょう。

①お父さんやお母さんの言ったこと(お手伝いや勉強)をすなおにやる。

②先生や指導者(しどうしゃ)のすすめたこと(素振りなど)をきちんとやる。

③良い結果が出なくとも、けっしてくじけずに最後までねばる。

 さいしょは三日坊主でもいいのです。3日つづけたら、もう3日やってみましょう。三日坊主を10回もつづけたら、いつの間にか1ヶ月が過ぎています。
 K君は、一度決めたことはかならずやり遂(と)げる!という信念をつらぬいています。このことを「一(いち)をもってこれを貫(つらぬ)く」と言います。

 君の人生は君のもの、主人公は君です。レッツ・トライ!!

柳楽一学

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