法話の窓

085 私のうそとおかあさんの優しさ

 ある小学生のお話です。

 小学四年生の夏、母から海岸のお店に支払う氷代を預かった私は、そのお金で友だちとナシを買ってしまいました。

 翌日、海岸のお店のおばさんが氷代の請求に来ました。母に呼ばれた私は「昨日、ちゃんと払った」と思わずウソをついてしまったのです。お店のおばさんに、いろいろ聞かれたけど正直に言えず「ちゃんと払った」と言い張りました。母は「誰かに間違って払ったんでしょうか」と改めて氷代を支払ってくれました。

 私は子供心にも、母が私のウソを見抜いていたことがわかりました。私が何よりも恥ずかしかったのは、母が私を責めることもなく、問いただすこともなく、ひたすら私を信じてくれていたことでした。

 このことがあって、私はウソをつく苦しさも恥ずかしさも、骨身にこたえるほど知らされました。私はあのときの母の優しい、そして厳しい声が忘れられないのです。

                         (『子どもに聞かせたいとっておきの話』より)

 私たちは、何げなく言った言葉で相手を傷つけたり、悪いことでもついやってしまうことがあります。そして、反省して後悔します。そういう心こそが「ほとけさま」ではないでしょうか。お母さんの優しさのなかに厳しさをうけとったこの子は、二度とウソを言えない子となったことでしょう。

小西教邦

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