法話の窓

059 みんな幸せになるために

 昔インドのコーサラという国に、パセナーディ王とマッリカーとよばれる賢い王妃がいらっしゃいました。ある日、二人でお城の中をさんぽしている時に王様がお妃さまにたずねました。

 「マッリカーよ。この広い世の中で、あなたは、あなた自身よりもいとしいと思う人はいるのかね」

 お妃さまはしばらく考えていましたが「王様、私には、この世に自分よりいとしいと思われる人はいません。では、王様にはいかがでしょうか」王様もしばらく考えていましたが「マッリカーよ、私も同じ思いだ」と答えました。

 皆さんはどうでしょうか?自分の好きなものをあいてにゆずったり、おこずかいの多いほうをあいてにゆずれますか?みんな自分がおいしいほうを食べたい、多いほうをとりたいという心を持っています。おたがい、いい方多い方を取り合いするからけんかになるのです。

 王様とお妃さまの考え方は同じでした。でも二人は「この考えは、どこかまちがっているような気がする。ひとつ、お釈迦さまのところへ行って教えを聞くことにしよう」といってお釈迦さまをたずねました。 

 お釈迦さまも二人の意見を聞かれたのち、しばらく考えられていました。そうして、次のように答えられました。

 「人はそれぞれいろんな考え方をする。しかし、どんな考え方をしようとも、自分自身が一番いとしいという思いはかわりません。それはほかの人も同じです。ほかの人にとっても、自分自身はもっともいとしいものです。そこで、自分自身がいとしいと思う人は他のものをいじめたり悲しませたりしてはいけません」と答えられました。

 自分が、いじめられたり悲しい思いをさせられるのはみんなイヤです。だから、そういう思いをまわりの人にしないようにしなさいというお釈迦様の教えです。

 この教えは、不殺生(ふせっしょう)という教えで、人間だけでなくあらゆる生き物のいのちをうばってはいけないということです。それは、食べ物を残さない、エンピツ・ノートなど身のまわりのものを大事にすることでもあります。

 そういう心で、みんなが仲良く、明るく楽しいくらしができるようにしましょう。

 

増谷文雄『仏教百話』ちくま文庫「不害」のおしえより

池上寛道

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