法話の窓

053 禅塾日記①

 皆さん、こんにちは。

 今日は、行き倒れのネコの話をしましょう。

 京都の花園という所に、花園禅塾(はなぞのぜんじゅく)という学生寮があります。大学生が24人、高校生が3人、学生達の面倒(めんどう)を見たり、生活の指導をするお坊さんが3人、合計30人がいっしょに生活をしています。

 彼らは、毎朝当番が6時に「開静(かいじょう)ー!!」と起こして回り、朝のお経をよみます。

「マカハンニャハラミタシンギョー!!」と、仏教の般若心経(ハンニャシンギョウ)というお経などを、皆で30分よみます。それから坐禅をして、朝ご飯を食べ、掃除をしてから学校へ行きます。

 毎日そうやって、仏教や禅(ぜん)を学びながら規則正しい生活をしているのです。

 

 去年の秋でした。

 2人の学生が、いつものように自転車に乗って学校から帰ってくると、禅塾の横の駐車場にネコが一匹うずくまっていたのです。

 そのネコは自転車がそばを通っても、じっとしていて動こうとしませんでした。

 ちょっと変だなと思った2人は、自転車からおりてネコに近づいてみました。それでもネコは動かないし、にげようともしません。

「死んでんのかな?」

「いや、だけど死にそうな顔してるよ。」

 2人は、指導員のお坊さんに告げ、集まって来た仲間達と相談して、そのみすぼらしいネコを近所の動物病院につれて行きました。

 その夜、花園禅塾の塾頭さんに、指導員のお坊さんから報告がありました。全部聞きおわった塾頭さんは、「それは良いことをしたね。だけど、ネコには保険がかけて無いからたくさんお金がかかるけど、どうするのかな?」そこまでは誰も考えていなかったのです。

 ネコは病院で3日間生きていました。学生達のうちの2人が、自分の名前の1文字ずつを与えて、ネコにヒロアキという名前をつけていました。

 ヒロアキは、一度も目を開けることなく、ニャンとも言わず、息を引き取りました。

 皆でヒロアキの為に次の朝お経を読み、そして入院費2万8千円を出し合いました。

 塾頭さんはヒロアキの顔も姿も見ていませんが、とても温かい気持ちになりました。名も無いノラネコのヒロアキが、学生たちに見せてくれたのは、お釈迦さまの教えの4つの苦しみ、生老病死(しょうろうびょうし)すべてです。生きている者は、やがて老い、病気になり、そして必ず死んでいく。

 でも、ほっておかれたらその日のうちに死んでいたであろうヒロアキは、病院で3日長生きをしました。言葉が話せたら、きっと「ありがとう」と言ったと思うのです。

おわり

柳楽一学

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