法話の窓

039 今・ここを、「一生けん命」

素敵な詩に出会いました。

 

 命 屋

             東郷史敬(とうごう ふみたか)東京・小3

   『命屋』さんがあればいいね

   でも

   命を買い替えられたら

   みんな 一生けん命

   生きないかもね

   そしたら

   つまらない人生になるね

           『にんげんぴかぴか』(川崎洋編・中公新書ラクレ)より

 

 思わずうなってしまいました。たった一回の人生だから、充実したものでありたいと誰でも願います。そのポイントが、「一生けん命に生きる」ことだと、小学校3年生の子にズバリと教えられました。

 

 そして、今年の二月の、素晴らしい体験を思い出しました。

"卒業記念宿泊研修"という初めての試みで、近くの小学校の六年生が全員で私の寺に一泊しました。いろいろな企画の中に、もちろん坐禅の時間もちゃんと組み込まれていました。

 翌日、帰りぎわの終了式で、児童会長のA君が、代表で挨拶をしてくれました。

「坐禅をしていて、初めは、和尚さんに警策(けいさく)で打たれないようにとばかり考えていました。

 そのうち、和尚さんも一緒に坐ってしまったので、少し気持ちがゆるみました。そうしたら、とたんに、脚が痛くなりだしました。

 その時、心の中で、『いいサ。和尚さんには見えないように、そっと脚をゆるめちゃえよ』という声がしました。

 ホッとして脚をくずそうとした時、今度は、『ダメダメ。動かない約束だろ。もうちょっとガンバレ』という声が聞こえました。

 僕はビックリしました。そして、『ヨシッ!』と思い、頑張りました。

 坐禅が終った時、脚がしびれてものすごく痛かったのですが、気持ちはとてもスッキリしていました。」

 A君のスピーチを聞いて、知らないうちに私は大きな音をたてて拍手をしていました。いや、PTAの役員さんや先生方も。

 ......手ヌキをするA君とガンバルA君。そのどちらにもなれるA君です。そして、そのA君自身が、頑張ろうとするA君を選び、それをやりとげました。その結果、スッキリした気持ちになれた、というのです......。

 アトランタ五輪で銅メダルを獲得した有森裕子さんは、「今度だけは自分で自分をほめてあげたい」との名言を残しましたが、きっと、こんな思いだったのでしょう。

 史敬君もA君も有森さんも、その時・その場・自分のやることを、「一生懸命」にやることが大切だと教えてくれます。それが「つまらない人生で終わらないコツだ」とも。

 A君達の、これからの人生が本当に充実したものになりますようにと祈りながら、私は、下山する彼らを見送りました。

高橋宗寛

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