法話の窓

017 ふしぎなできごと

 五年前に、和尚さんのお父さんが亡くなって、「四十九日忌(き)」という法事を行った時の事です。

 遠くの親せきの人たちが、法事の前日に集まり夕食を食べていると、一ぴきのコウモリがフアフアととんできたので「アッ、コウモリだ」という大きな声に、みんなびっくりした顔で、しばらく見ていました。
 音もなく部屋の中をとびまわったり、天じょうにぶらさがったりしました。
 和尚さんの弟が、サシミを一きれ部屋のすみにおいたら、コウモリがよって来て、食べはじめました。
 みんなはじめてのけいけんで、しずかにそのようすを見守っていました。
 和尚さんがそっと近づいてみると、一ミリ程の細い歯でモグモグと食べていました。そして、天じょうへとんで、かけ時計のうらにかくれてしまいました。
 おどろかさないで、そっとしておこうと話しながら、夕食をおえました。

 法事の次の日、本堂のろうかで花のかたずけをしていると、何か動くものがチラッと見えました。何だろうと思って見ると、法事の前日にいたコウモリが、ミカン箱の左側で羽根を広げて休んでいたのです。
 和尚さんとコウモリのきょりは50センチ程。コウモリの目の前に、バナナを少しおいてみたら、すぐに食べはじめました。じっと見ていると、コウモリは食べるのをやめ、和尚さんを見ているようにみえました。
 和尚さんのさみしい心を、コウモリがなぐさめてくれたのかも知れません。
 用事でその場所をはなれ、またもどってくるとコウモリはいなく、食べかけのバナナだけが残っていました。


満月にあそぶコウモリ

 信じられないけど、本当の出来ごとです。昔の人は、鳥の鳴く声に、お父さんやお母さんを想い、じっとその声を聞いていたそうです。
 和尚さんには、お父さんがコウモリの姿をかりて励ましに来てくれたかのように感じられました。

鷲津義芳

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