法話の窓

014 一番大切な人

 むかし、むかしインドにコーサラという国がありました。ある日、その国の王様がおきさき様にたずねました。
「妻よ。この広い世界に自分より大切だと思える人が誰かいますか?」
おきさき様はしばらく考えて、思いつめた顔で正直に答えました。
「王様。よく考えてみましたが、この世界に自分より大切だと思われるものはございません」

そして逆に、
「王様はいかがでございましょうか」
とたずねました。すると王様も、
「妻よ。実は私も自分のことが一番大切としか思えないのだよ」
と、日ごろの思いを告白したのでした。

 王様とおきさき様の考えは同じでした。しかし、二人は「本当にこのような考えでいいのだろうか。どこか間違っているのではないだろうか」と悩んでしまいました。そこで、二人が日ごろから尊敬しているお釈迦様のところへ行き、お話を聞いていただきました。するとお釈迦様は深くうなずいて、
「そのとおりです。人は世界中のどこを探しても、自分より大切なものを見つけることはできないのだよ」
と、王様とおきさき様の考えは間違っていないと言われました。そしてつづけて、「同じように、他の人もみんな自分のことが一番大切なのですから、他の人がいやがる事、悲しむ事をしてはいけないのですよ」と教えられたそうです。

 誰にとっても一番大切な人は自分自身なのです。そのことがわかったならば、なおさら他の人に対して親切に接しなければいけないのです。
 人に親切にした時、その人が喜んでくれたり、「ありがとう」と言ってくれたりします。それを自分の喜びにできたら素晴らしい事だと思います。

 目の前におやつのケーキがあるとしましょう。そのケーキを自分で全部食べた時の喜びが10だとします。そこに友達が遊びに来たので、ケーキを半分づつに分けて食べました。二人で「おいしいね」とニコニコ食べました。このとき喜びは半分の5になってしまうのかな。きっと、一人で食べるより何倍もの喜びがあると思うのです。

寺町宗峰

ページの先頭へ