法話の窓

ブルドッグの夏

 

 4年前の10月、突然、ほんとうに突然、静岡に住んでいる大学の先輩からマスクメロンが送ってきました。奇麗な箱入りで2個も頂戴しました。「物をくれる人は良い人だ」と私は思っているので、「後輩には厳しい先輩だったが、本当は良い人なんだなあ」と昔を思い出しながら、有り難く賞味しました。丁寧に礼状を出しマスクメロンのこともとっくに忘れ12月も押し迫った頃、その先輩から電話がかかってきました。
 「おい、元気でやっとるか。あのな、わしは犬を飼い始めたんだが、ちょっと事情があって飼えなくなってなあ。お前さん引き取ってくれ」。電話を聞きながらタダほど高い物はないという因縁めいた言葉が頭の中をぐるぐる回っていました。
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 早速、菓子折り持参で静岡まで車を走らせました。なんと頂戴する犬はブルドッグでした。先輩が優しい言葉で、「この犬は飼い方がとっても難しいからよく勉強して飼うんだよ。夏はエアコンの効いた部屋で飼わないと死んでしまうからな」と・・・・・・。

 帰路、本屋に立ち寄り、ブルドッグに関係する入門書から専門書まで数冊を買い占めました。飼う事にはすぐに慣れましたが、散歩をしていると田舎の事ですから近所のオバちゃん達が、「なんとブサイクな犬やなあ、太り過ぎと違うの、和尚さんとそっくりやわ、キャハハハ!」と犬以上にブサイクな笑い方をなさいます。しかし、ここで負けていては只の人。お坊さんの本領を発揮しなければなりません。
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 「この犬もね、親や兄弟やご先祖があるんですよ。オバちゃんたちもまったく一緒ですよ。DNAの最先端にいるのがオバちゃんやこの犬で、同じように足下に咲いている花も、樹木も猫も杓子もみんな遠い過去から一度も途切れたことのない生命なんですよ。オバちゃんもどこかで途切れていたらここに居ないんですよ。私たちの眼に見えるものはすべて一度も途切れたことのない永遠に生き続けている生命なんですよ。だからね、ゴキブリ一匹を殺すにも、あ~これらにも親や兄弟がいるんだな~、と思いを寄せる事が大事なんですよ。『発句経』に、"人の生を受くるは難く やがて死すべきものの いま命あるは有り難し"とありますが、人に限らず他の生命を嘲笑(わら)ってばかりいるmyoshin1407a-3.jpgとやがて自分が嘲笑(わら)われるようになりますよ。だからね、今の私の生命に感謝し、ご先祖様に感謝し、お互いにDNAの最先端に生きるもの同士は嘲笑(わら)ったり、上に見たり、下に見たりしないで今の生命を有り難く生きましょうね。うちのお寺も7月のお盆、8月のお施餓鬼とご先祖様の行事が続くので、今まで一度も途切れなかった私の生命に感謝するためにも、夏休みになるからお孫さんや子供と一緒にお寺にお参りに来てちょうだいね」。と、お伝えしておきました。

 ブサイクな犬も三日飼うと可愛くて可愛くていとおしくなります。

江口潭渕

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