法話の窓

あたたかさ(2011/02)

「梅一りん 一りん程の あたたかさ」

 

 暦の上では春をむかえましたが、まだまだ寒さの厳しい早春でございます。
 冒頭の句は江戸中期の俳人服部嵐雪(一七〇七没)の「玄峰集」に出ている俳句でございます。
 厳しい寒さの早春の中で梅の花が一輪咲いています。その花をながめていると、わずかではありますが、春の気配が感じられるという味わい深い俳句であります。
 この句を読んでいますと、今の世の中の様子と一致するようでもあります。
 社会の中では色々と問題が生じていますが、その中であたたかい活動をしている人もいるからです。

 

 「おはよう」「忘れ物ないか」「今日も元気やなあー」登校する子供たちを毎日はげましている交通指導のおじさんの声です。私の町では毎朝見慣れた光景です。
 この交通指導のおじさんは、私が小学生の頃からですので、かれこれ三十年の間続けています。私の家では親子二代お世話になっています。
 この交差点は車の通りが多く、かつて登校中に事故がありました。その悲しい思いを二度と起こさないようにと交通指導を始めたそうです。
 始めた当初はただただ事故のないようにという願いから、ふざけている子供を叱ったこともあったそうです。おじさんは「子供は素直だなあ」こちらが叱ると、すぐに来て「おじさんごめんね。」と謝ってくる。その時は「おじさんもしかってゴメンね。危ないからもうしちゃだめだよ」と言うと、「うん」と言って笑顔で学校に行くそうです。
 こうした交通指導を続けていくうちにおじさんは、子供の大切な命を守るという責任の重さに気づき、夜も早く休むようになったそうです。仕事でいやなことがあった次の朝などは、行くのをやめようと思うこともあるそうですが、朝が来ると横断歩道に行ってしまう。そして、元気な子供の「おいちゃんおはよう」の声を聞くと、それまでのもやもやが何だったのかと反省するそうです。
 「本来ならば私が子供の見本にならないといけないのに、逆に子供から今元気をもらっているのですよ。」と、笑顔で教えてくれました。
 仏教で大切にされている実践の一つに「利行」があります。この「利行」は身体や言葉の善い行いで、人のために損得を離れ、みんなが少しでも幸せになれるよう心のこもった助け合いをすることを言います。

 

  法句経 五四 友松圓諦 訳

   華の香は
   風にさからいては行かず
   (中略)
   されど
   善人の香は
   風にさからいつつもゆく
   善き士(ひと)の徳(ちから)は
   すべての方に薫る

 

 美しい花の香りは、風の吹く逆方向にはただよっては行きません。しかし、善い行いは風の向きに関わらず誰でも感じ取ることが出来るのです。
 難しいことは何もありません。施しても減らない「やさしい言葉」「明るい笑顔」、この二つはどんなに忙しい人でも、子供でも、お年寄でも、病気で床についている人でも、微笑を見せることにより相手にやさしい心を伝えることが出来ます。


 わずか小さな行いでも、その行いを受ける人には心のあたたかさが伝わってまいります。
 私たちの生活(くらし)は多くの方のおかげで成り立っています。その方々やすべてのものへの感謝の気持ちを忘れず、私たちの一輪のあたたかさを伝えてまいりましょう。

入不二 香道

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