法話の窓

晋山式(2010/10)

 さわやかな秋ともなれば、お寺で晋山式(しんざんしき)という盛大な法要が営まれることがあります。
 晋山式(しんざんしき)とは新任の和尚様がお寺に住職するための儀式です。
 晋山式の「晋」は、進むという意味です。お釈迦様、お祖師様が示された教えの道を進んでいくのです。「山」とは寺のことです。寺は、教えを学び仏心を受け嗣ぐ人間形成の道場であり、ご先祖の霊場です。ですから、新住職はもちろん、檀信徒の皆様と共に仏祖の御恩に報い仏法を弘めていく誓いをする大切な式が晋山式です。


 さて中国(宋)の高僧、五祖法演(ごそほうえん)禅師は、弟子の仏鑑慧懃(ぶっかんえごん)の晋山に当り、住職として己を律する四つの戒めを示されました。仏鑑禅師は師を拝し、この語を胸に刻みつけて生涯の戒めとしました。
 この教えは、寺に住職するものだけでなく、今を生きていく私たち一人ひとりにとっても大切な教えです。現代人こそ心掛けるべきポイントがずばりと指摘されています。この四つの戒めを一つひとつご紹介しながら私たちの生活に則して考えてみましょう。


【第一、勢(いきお)い使(つか)い尽(つ)くすべからず】
 例えば、バブルのこのご時世に勢いに奢(おご)りきっていた我々に不況の禍(わざわ)いがやって来ました。与えられた力を得意になって振り回していたら必ず失敗するものです。順風の時も逆風の時も、淡々(たんたん)と努めていきましょう。


【第二、福(ふく)受(う)け尽(つ)くすべからず】
 一人ひとりの命は、天地自然の恵み、社会の皆様のお陰、ご先祖の御恩を被(こうむ)って初めて成り立っています。それが最大の福です。それを忘れて福を貪(むさぼ)り尽くせば、自らを滅ぼすことになるのです。自分を生かしている恵みに感謝して、少しでもご恩返しをしていきましょう。


【第三、規矩(きく)行(おこな)い尽(つ)くすべからず】
 規矩とは、守るべき規律です。しかし規律を作り過ぎるとかえって弊害がでます。マニュアルどおりの教育がかえって強制となり、子供たちの自主性を奪いがちとなります。規則を守らせるにも他者への慈悲が根底になくてはなりません。


【第四、好語(こうご)説(と)き尽(つ)くすべからず】
 好い言葉を十分に解説されると分かったような気になって慢心します。しかし言葉の本当の意味は、実行して体得して初めて古人の深い英知がしみじみと感じられましょう。


 以上、法演禅師の教えの要点のみ記しました。私たち一人一人が、禅師の教えを我が戒めとしてかみしめ、新住職様と共に、新しき修行への出発(たびだち)の日としたいものです。

 

水野宏宗

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