
同じ仕事をしているのに、その人が加わると職場やその場の雰囲気は明るくなり、歓迎される人がいます。あなたも私もその一人になりましょう。
昔、みんなで幸せになれるにはどうしたらよいかを研究している人々が一堂に集まりました。時は1957年10月、米国マサチューセッツ工科大学、世界中から各分野を代表する学者数百人だったそうです。東洋人ではただ一人、完成された人間性の実現を紹介できる禅仏教の大家として鈴木大拙博士が招かれました。仏教への期待がいかに高いかを感じます。
主催者の一人、米国の心理学者マスロー博士が、仏教に着目したからだと思います。
そのマスロー博士が人格と動機の表現に紹介されたといわれる例話があります。
ある日、旅行をしている一家が、Xという町にやって来ました。一家はその町の長老を見つけ、自分たちがYという町を離れたのは、その町の人々が友好的でも協力的でもなかったからだと説明しました。この町の人々はどうだろうか、この一家は、この町の人々の様子を知りたかったのです。
「残念ながら」その長老は頭を振りながら答えました。
「あなた方はYの町の人々のことを説明したが、ここもまったく同じですよ」と。
これを聞いて、その一家はこの町を離れ、旅を続けました。
そのすぐ後に、同じように旅をしている別の家族がやって来ました。その一家も同じ長老を見つけて、この町に住みたいという希望を話しました。一家はYの町からやって来たこと、そこの人々は誰もがきわめて友好的で協調性があったことを話しました。
しかし、妻の健康上の理由から、かかりつけの医者が、すぐに町を離れた方がよいと勧告したのでした。この土地の人々はどうなのでしょうか、と一家はたずねました。
その長老は、うなずきながら、笑って答えました。
「あなたが話してくれたYの町の人たちと一緒だよ。ここも友好的で協調性もあるんだよ」と。
私たちが生まれながらに頂いている最も美しい心を、菩提心といいます。相手と同じ立場に立って人々を救ってくださる観音さま(観世音菩薩)お地蔵さま(地蔵菩薩)のように菩薩と呼ばれている仏さまは、その美しい心を仏さまの形に表したものといわれています。
どうしたら菩薩さまのようなこころに気づくのでしょう。
三島龍澤寺の中川宗淵老師作といわれる次の歌があります、
南無や大悲の観世音、虚空にあまねき慈悲なれど
帰命頂礼するときは、われらの心にすみたもう
ただその声をきく底の、主をたちまちみるときは
われらの心そのままに、大慈大悲の観世音
帰命頂礼(きみょうちょうらい)とは、頭を地につけて、こころを込めて礼拝することです。そうすると一切の先入観が消えて、私たちのこころに、観音さまが宿りますと教えてくださっています。
人種も歴史・文化も生活様式も異なる人々の暮らす街でも、人の身になって尽くせる人は、誰からも親しまれ、尊敬もされることを、お釈迦さまが説いてくださっています。
人々が幸せになる四つの方法(四摂事〈ししょうじ〉=布施、愛語、利行、同事)のひとつ同事(人々に協力すること。人々と同じ姿をし、同じ仕事をしながら人々を幸せに導く)です。一心に礼拝することが幸せへの近道であることを、いつも思い出しましょう。
マスロー・エブラハム(ハロルド)Maslow Abraham (Harold)=米国、心理学者。ニューヨークのブルックリン生まれ。ブルックリン大学教授(1937―51)。グランダイス大学教授(1951―61)を歴任。人間性心理学の祖とみなされている。大きな影響をもった著書「動機づけと人格(1954)は、新しい人間性の型を探究し、要求の段階的構造、自己実現、絶頂経験などの心理学概念を導入した。※参考資料=完全なる人間 魂のめざすもの「真実の人」アブラハム・マスローの生涯(エドワード・ホフマン著/上田吉一訳)
横山 博一