今月の法話

035 もりのこえ

 去る三月二十五日、愛知万博が開幕しました。「愛・地球博」と別称し、テーマは「自然の叡知」です。その会場の象徴になるのが、全長二・六キロメートルの空中回廊グローバル・ループです。その名の通り、ひょうたんに似た形を描く大きな《輪》で、幅は二十メートル余とゆったりとし、勾配はあってもゆるやかで歩きやすく、車椅子の人でも安心して通れるものです。見上げるような聳(そび)える建物はあまり無く、森林の緑が充分で、数多くの外国館などのパビリオンを結び、この上を一周すれば世界を訪ねることができる交流の《輪》です。地球と人とを守る自然との共生や、伝統と知恵の再生を表し、《輪》に通じる《和》の心で世界中の人の交流を図る狙いがあるそうです。

 公式キャラクターであるモリゾーとキッコロを描いた『もりのこえ』という絵本があります。皇太子さまが愛子さまに読み聞かせたことでも話題になりました。

 モリゾーはキッコロに語ります。

  「・・もりは みんなを まもっているんじゃ

     でも もりの こえは ちいさいからな

     だから みみを すますことじゃよ・・」

 森の声を始め、ふだん聞こえにくい声や見えにくいもの、いや、聞こうとしていない、見ようとしていないものが、私たちには多すぎるのではないでしょうか?

 今年のテーマ・同事摂法について『大宝積経」ではこう説かれています。

  「‥同事というは、来って乞い求むる諸の衆生の所に於いて、

    平等の心にて其の義利を成ずることを行うなり。・・」

 すなわち、「同事とは、多くの生きとし生けるものの乞うことに、平等の心で、正しい行いをすることです。」と。相手と等しい気持ちで、同じ事を同じ気持ちでできることをいいます。

 ところで、「摂」の字の旧字をみてみますと、「攝」と書き、なんと「耳」が三つも付いています。きっと、もともと持っている二つの耳、寝てる間も開いている耳だけでは不足で、耳をもう一つ足すほどに心澄まして、相手の声無き声を聞こうということではないでしょうか。

 万博展一番人気は、ロシア凍土より発掘され一万年の眠りから覚めたマンモスです。柔らかな肉、体毛までがそのままの生々しいものだそうです。冷凍室での対面となる画期的な姿です。早く会いたいものです。

 奇しくも万博開幕初日は、春のお彼岸も既に結岸したというのに、朝からチラチラと雪が降り、遂に夕刻には時ならぬ霙(みぞれ)となり厳しい冷え込みとなりました。まさかマンモスが呼び起こした天候ではないでしょうが、そのまさかをまさかのままで済ましてしまうのが愚かな人間なのではないでしょうか。

 もりのこえに耳を澄ましてみましょう。きっと、みんなが幸せになれる正しい道を囁(ささや)いてくれるに違いありません。そして、自然の叡知に抱かれる私たちであることに今一度気づき、生きとし生けるものの正しい在り方を見つめようではありませんか。

中西 東峰